有機化学を基盤とした、生命現象の解明とその人為的な制御に関する研究は、ポストゲノムの時代にあって、今後ますます飛躍的な発展が期待されます。一方、今後の医薬資源の開発について考えた場合、多様性に富む化合物群をいかに効率良く生産し、創薬シードとして提供できるか、が鍵になります。私たちの研究室では、以下のテーマを中心に、今後の医薬資源研究をリードする、ケミカルバイオロジー領域の研究に日夜挑戦しています。
(1)天然物の生合成(ゲノムマイニング、生合成工学、合成生物学)
なぜいま生合成研究なのか?資源が枯渇しつつある現代にあって、従来の方法論による天然物の探索供給が困難になりつつあります。そこで新たな方法論が求められるわけですが、遺伝子資源の活用により効率的な創薬シードの探索供給が可能になります。ポストゲノムの時代、遺伝子工学やバイオインフォマティクスの進歩と相まって、今が絶好のチャンスといえます。遺伝子の設計図をもとに、人為的な生合成の改変や非天然型新規化合物の創出といったことも既に現実のものになりつつあり、天然物に匹敵する化合物ライブラリーの構築や、希少有用物質の安定供給も可能になります。欧米では研究も盛んで若手の台頭も著しい分野です。
天然物の合成生物学のすすめ
(2)酵素の構造と機能(結晶構造解析、酵素工学、人工酵素)
二次代謝酵素の中には、微妙な構造の違いで基質や生成物の特異性が大きく変化するものがあり、これが天然物の分子多様性をもたらす大きな要因の一つになっています。酵素タンパクの立体構造に基づく合理的な機能改変と分子多様性創出の格好のモデルといえます。また、ポリケタイドやテルペノイドなどの基本骨格を構築する酵素の中には、きわめて広範な基質特異性を示すものがあり、こうした潜在的な触媒能力を活用することで、創薬シードとなりうる非天然型新規化合物の効率的な生産が可能になります。一方、酵素反応機構についても未解決の問題が多く残されています。酵素の精密機能解析に基づく反応機構の解明によって、新たな触媒概念の確立や人工酵素の設計などが可能になります。
(3)生物活性物質の探索(単離構造決定、メディシナルケミストリー、ケミカルバイオロジー)
天然物化学の研究に、生物活性物質の探索と単離構造決定を欠かすことは出来ません。天然物の構造や機能には時として想像を遥かに超える斬新さがあり、それが天然物研究の一つの醍醐味でもあります。一つの新しい天然物の発見が、後に新たな研究領域創成への礎になった例も枚挙にいとまがありません。こうしたいわゆるモノトリの技術は一朝一夕にしてなるものではなく、長年のノウハウの蓄積が重要になります。これを絶やすことなく、さらに高めていかなければなりません。天然物の生物活性作用発現機構の解明や、細胞内信号伝達系に作用する天然物の探索などにも取り組みます。
研究手法としては、基質やプローブの合成、単離構造決定など、低分子化合物の取り扱いから、遺伝子操作、酵素タンパクの結晶化や変異酵素の作成に至るまで、幅広い知識と技術を習得することができます。有機化学を基盤としながら、生化学、分子生物学、構造生物学、物理分析化学、さらには、醗酵工学や代謝工学に至るまで、多領域の学問分野の手法を取り入れています。
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